梅雨前線による豪雨災害
今年も九州南部で記録的な大雨となり、球磨川流域で土砂崩れや河川の氾濫が発生しました。熊本県の人吉市や下流の球磨村、芦北町などで大きな被害となっています。
梅雨前線による大雨はどこでも起きる現象です。今回どの様に災害に至ったのか、個人的に整理しました。乱筆乱文ご容赦ください。
出典:平成19年3月23日 第63回河川整備基本方針検討小委員会 資料一覧 球磨川水系 資料2
大雨の状況
雨雲レーダーをみると、7月3日の未明から4日の午前中にかけて、非常に強い雨に見舞われています。熊本地方気象台は4日の早朝に相次いで、記録的短時間大雨情報を発表しました。
3:20までの1時間に、熊本県芦北町付近で約 110ミリ
3:30までの1時間に、熊本県芦北町付近で約 120ミリ以上
球磨村付近で約 110ミリ
八代市付近で約 120ミリ
6:00までの1時間に、熊本県芦北町付近で約 110ミリ以上
6:30までの1時間に、熊本県芦北町付近で約 120ミリ以上
球磨村付近で約 110ミリ
津奈木町付近で約 110ミリ
8:30までの1時間に、熊本県人吉市付近で約 110ミリ以上
球磨村付近で約 110ミリ
あさぎり町付近で約 110ミリ
4日の午前4時52分、気象庁が熊本県と鹿児島県に大雨特別警報を発表し、最大級の警戒を呼びかけます。ちなみに、大雨特別警報は内閣府の「災害レベル」に当てはめると警戒レベル5(災害がすでに発生している可能性あり)に相当します。参考:「避難勧告等に関するガイドライン」
球磨川の水位上昇
球磨川流域に降った雨は支流を通じて、本流へと集まりました。
NHKによると、人吉市や球磨村などで、午前1時ごろから急激な水位上昇が観測されたそうです。球磨村の水位観測所では、午前1時から午前3時までの2時間で、4メートル以上も上昇しています。
国土交通省が球磨川に設置した水位観測所のデータによると、熊本県球磨村の渡(わたり)では、午前1時には4メートル1センチだった水位が、雨が強まり始めた午前3時には水位は8メートル33センチと4メートル32センチ上昇していました。
その後も3メートル余り水位は上昇し、「氾濫発生情報」が出された直後の午前6時には、11メートル80センチに達していました。
また、同じく球磨村の大野では午前1時には6メートル85センチだった水位が、午前3時には11メートル62センチと4メートル77センチ上昇していました。
4日の午前3時20分、球磨村の大野水位観測所と渡水位観測所で氾濫危険水位を観測し、八代河川国道事務所と熊本地方気象台から、警戒レベル4に相当する「氾濫危険情報」が発表されました。
また、午前4時00分には人吉市の人吉水位観測所において氾濫危険水位となり、同様に「氾濫危険情報」が発表されます。
これを受けて、球磨村では午前3時30分に、人吉市では午前5時15分に避難指示(全域)が発表されています。
人吉より下流で始まった河川の氾濫と浸水
球磨川の氾濫は、人吉より先に芦北町や球磨村で発生したようです。SNSの投稿から、芦北町の白石地区では午前5時30分ごろには氾濫が始まったと確認できました。その少し上流にある大野、人吉、渡の各観測所では、午前6時前に「氾濫発生情報」が発表されます。その後も水位は上がり続け、午前8時前に球磨川のあちこちで氾濫が発生すると、警戒レベル5相当の発表が相次ぎました。
氾濫発生情報の発表された午前8時前の球磨村付近をライブカメラで見てみると、増水した川の水が谷いっぱいに広がり、両岸が浸水しています。平常時の川の様子と比べると、その違いに驚きます。
地理院の作成した浸水推定図
4日、国土地理院はSNSの画像と標高データを用いて、浸水推定図を作成し公開しました。
あくまでも推定図ですが、人吉市街の広い範囲で浸水しているのがわかります。また、下流へ向かうほど浸水深が深くなっているように見えます。
地形の特徴と氾濫の状況
浸水したエリアはどのような地形なのでしょうか。周辺の標高色分け図(等高段彩図)を作成してみました。
この一帯は「人吉盆地」の西端に位置し、周囲より標高が低くなっています。一番低い場所を流れているのが球磨川です。人吉の市街地は河床より一段高いものの、比較的低い場所に位置しています。
盆地には複数の川が流れ込み、球磨川と合流しています。この少し上流では最大支流の川辺川も合流しており、流域で降った雨の多くがここに集まります。
さらに、盆地西端(地図上の左側)の渡地区からは、山地が迫り川幅が狭まっていきます。こうした「狭窄部」が堰のような役割を果たし、流れをせき止めて盆地内の水位を上昇させました。似たような現象は、昨年の台風19号による各地の氾濫でも見られました。
一方、球磨村や芦北村は山間の狭窄部に位置し、集落が谷間のわずかな平地に点在しています。狭窄部では山地を縫う様に蛇行し、川岸には岩がむき出しています。こうした場所では早い段階で氾濫が発生したようです。
最近テレビで「河川の氾濫は下流ほど遅れて起きます」と注意喚起されることもありますが、地形的な要因で下流部から氾濫することもあるようです。